「思ってたのと違う」が起きるチームと起きないチームの違い──ズレを減らす仕組みとは

2024/08/03に公開

新機能を無事にリリースし、社内ではちょっとした安堵と達成感が漂っていました。
エンジニアチームは、きっちりと要件をこなし、品質チェックも完了。
「よし、これでお客様の課題も一歩前進できるはず」

ただしこの「達成感」は、あくまで社内目線での手応えです。社内では、「予定通り」「不具合なし」「仕様に準拠している」といった“開発者としての正しさ”をもとに判断されるため、完成した時点での安心感はとても大きくなりがちです。

一方で、ソフトウェアの受け手である顧客がどう感じるかは、社内の達成感とは別の軸にあることも少なくありません。

そんな空気を破ったのは、お客様からの一通の連絡でした。

「あの…追加された機能、ちょっと思ってたのと違ってて…」

この瞬間、チーム全体が「えっ?」と固まるような空気に包まれました。

状況整理

今回のプロジェクトでは、

  • 事前にお客様の要望をヒアリングし、
  • 営業も内容をきちんと説明し、
  • リリース前にはデモも共有し、
  • テスト(QA)も完了し、
  • エンジニアは「仕様通りに正しく作った」という自負がある、

というように、社内のプロセスとしては非常に丁寧に進められていたケースでした。

にもかかわらず、「思ってたのと違う」という声が顧客から返ってきた。

この時、チームには重たい空気が流れました。

  • 「なぜこんなことが起きてしまったんだろう?」
  • 「誰かが何かを間違えたんだろうか?」

これは、ソフトウェア開発の現場では決して珍しいことではありません。
むしろ、一見うまくいっているように見えるプロセスの中で起きやすい落とし穴とも言えます。

私たちも、こうした状況に何度も立ち会ってきました。

「作った側」と「使う側」の間に、目には見えない“期待”のズレが潜んでいる。そんな現象をどう読み解くかが、今回のテーマです。

登場人物とそれぞれの立場

このような事態が発生したとき、関わる人たちはそれぞれ異なる立場や責任を持っています。誰かひとりが悪いという話ではなく、それぞれが正しさを持ちながらも、噛み合わなかった構造的な背景があります。

👨‍💻 エンジニア

役割: ヒアリングされた仕様に従って、機能を設計・実装する技術の担い手。

  • 要件通りに作ったという自負がある
  • 「追加の仕様変更は聞いていない」
  • 技術的には間違っていないという感覚
  • 「自分たちは言われた通りに作った。なぜ文句を言われるのか分からない」

「仕様書どおりに作ったのに、なぜ“違う”って言われるんだろう…」

🧑‍💼 エンジニアマネージャー

役割: エンジニアの仕事がスムーズに進むように調整し、チームの成果を最大化する役割。

  • プロセスとしては問題なかったと感じている
  • だが、コミュニケーションや文脈の認識に差があった可能性を感じる
  • 「現場も頑張ってたし、進め方に大きな間違いはなかったはず」

「いま出すのが正しいのか、それとももう少し粘るべきか…どちらも分かるだけに悩む」

🧑‍💼 営業

役割: 顧客と向き合い、要望や背景を社内に伝える橋渡し役。関係維持もミッション。

  • 顧客にはちゃんと説明したと思っていた
  • しかし、言葉では伝えきれていなかった部分があったかも
  • 「先方も納得してくれていたと思っていたけど…何が漏れていたんだろう?」

「あのとき、もっと踏み込んで確認すべきだったのかもしれない…」

👔 経営者 / 事業責任者

役割: ビジネス全体の方向性や成果に責任を持つ。リリース時期や競争戦略にも直結する判断を求められる立場。

  • 信頼の揺らぎを強く懸念している
  • 誰か一人を責めるよりも、チームの再現性や信頼構築に目を向けたい
  • 「小さなすれ違いが、大きな失注につながるかもしれない」

「現場を守りながら、顧客の信頼も保つ。そのバランスが本当に難しい」

📋 プロダクトマネージャー(PM)

役割: ロダクトの企画・進行・リリースまでを統括し、ユーザーやビジネスに価値を届ける責任を持つ人。

  • 要件を整理し、スコープを調整した張本人
  • 「ちゃんと伝えたつもりだったのに…」という戸惑い
  • 開発と営業の間に立ち、“翻訳者”としての限界を感じる
  • 結果責任を感じやすいが、全体のコントロールが難しいジレンマ

「言葉にしきれない期待をどう扱えばよかったのか…もう一歩踏み込むべきだったのかも」

🙋‍♀️ 顧客

役割: 実際にサービスや機能を使うエンドユーザー。成果を期待して待っている側。

  • 要件としては間違っていないが、「なんか違う」と感じる
  • 機能そのものより、“どう期待していたか”が大きく外れていた

「別に間違っているわけじゃないけど、こういうのを求めていたわけじゃなかった…」

具体事例:仕様どおりなのに“思ってたのと違う”

ここで、実際の現場でもよくある「仕様どおりだけど、期待とズレた」具体的な例をいくつかご紹介します。読者の皆さんのチームでも、似たような経験があるかもしれません。

📱 スマホ表示が想定外だった問題

「PCでは完璧だったのに、スマホで開いたらボタンが見切れてる…」

背景:
デザインレビューや動作確認はすべてPCで行われていたが、実際のユーザーは通勤中などにスマホで使う前提だった。利用シーンの想定がずれていた。

ポイント:

  • 「レスポンシブ対応」は要件として存在していたが、“どの程度まで”の認識共有がなかった
  • 技術の問題ではなく、使われ方への理解の浅さが原因

📧 通知仕様が共通化されていなかった

「通知ってメールのこと?え、Slack通知って話じゃなかったの?」

背景:
“通知”という言葉を使っていたが、関係者ごとにイメージが違っていた。
タイミングやチャネル、文面まで含めた認識合わせは行われていなかった。

ポイント:

  • 抽象度の高い単語ほど、共通の定義が必要
  • 「言葉は同じでも、思い描いているものが違う」ズレが起きやすい領域

🧾 帳票出力の形式が合っていなかった

「PDFじゃないと困ります。提出書類なんで」
「いや、CSVの方が集計に便利だと思ってたんですが…」

背景:
「帳票出力」という同じニーズでも、目的によって求める形式が異なっていた。顧客の中でも、PDF派とCSV派に分かれていた。

ポイント:

  • 「何に使うのか?」まで聞けていないとズレる
  • 出力形式の話に見えて、実は業務フローの理解不足によるすれ違い

🔁 並び順の自動化が裏目に出た

「朝はこの順番で処理してるんです。順番が変わると混乱します…」

背景:
開発側は“最新順”が便利だと考えていたが、現場では「並び順=作業の手順」だった。並び順には明示されていない業務ロジックがあった。

ポイント:

  • ユーザーの慣れた作業フローとシステムの自動化が衝突
  • 「改善したつもり」が、「混乱を生む変更」になることも

🗂️ タグ機能が使われない

「便利そうだけど、どう使えばいいのか分からないって言われました」

背景:
柔軟なタグ機能を用意したが、運用ルールが整っておらず、誰も活用しなかった。使い方のガイドもなかった。

ポイント:

  • 高機能なものほど、導入支援や使い方の提示が不可欠
  • 「使われる設計」まで含めて初めて“リリース完了”と言える

ズレの背景にある構造とは?

こうした事例を振り返ってみると、いくつかの共通点が浮かんできます。

  • 言葉としては合っていたけれど、解釈に微妙な違いがあった
  • 技術的には正しくても、ユーザーの期待とは少しずれていた
  • 使われ方や業務の背景が、十分に共有しきれていなかったかもしれない

「仕様どおり」と「期待どおり」の間には、思っている以上に広いすき間があります。

こうしたズレが、どのようにして起きていたのか。
ここまで紹介してきたような具体的な例を振り返ってみると、いくつかの共通する背景や構造が浮かび上がってきます。
いずれも、プロセスが破綻していたわけではなく、誰か一人が何かを間違えたわけでもない。
けれども、小さな解釈の違いや前提のすれ違いが、結果として「思ってたのと違う」というズレを生んでいたのかもしれません。

この出来事を少し引いて見てみると、「ちゃんと完成しているのに、なぜか満足されない」というようなギャップが見えてきます。

要件通りに作られていて、技術的にも問題がない。
それでも、お客様の“思い描いていたもの”と、実際に届いた“成果物”との間に、どこかすれ違いがあったように感じられる——そんなケースです。

そのズレの背景には、言葉になりきれていなかったニュアンスや、業務上の前提、期待の背景などが潜んでいることもあります。

よくある類似のセリフや事例

  • 「言われた通りにやったつもりなんだけど、なぜか怒られた」
  • 「仕様にはちゃんと書いてあったはずなんだけど、伝わっていなかったみたい」
  • 「デモではすごく好感触だったのに、本番で不満が出てしまった」

どれも、“理解できたと思っていた”ところに、小さな見落としや解釈の違いがあったのかもしれません。

では、こんなとき私たちはどう考え、どう動けばよかったのでしょうか?
「原因の仮説」や「現場でできる対策」について、引き続き考えていきます。

私たちが考えるズレのポイント

振り返ってみると、いくつかのタイミングや構造の中で、ズレが生まれる余地があったのかもしれません。

仮説1:期待値が明文化されていなかった可能性

顧客の中には、「こういうものが出てくると思っていた」「こんなふうに使えるはずだ」といった期待があったけれど、それが要件や資料の中には書かれていなかった。つまり、“伝えたつもり”と“聞いたつもり”の間に、見えない空白があったとも考えられます。

仮説2:「使いやすさ」や「直感的」といった言葉の解釈が分かれていたかもしれない

例えば「ユーザーにとって使いやすく」という表現があったとしても、開発チームと顧客とでは、そのイメージがまったく違うことがあります。
抽象的な言葉は便利な一方で、具体的なすり合わせがないと誤解の温床になりやすいです。

仮説3:認識をすり合わせる場が形式的になっていた

中間レビューや定例ミーティングなど、“すり合わせのチャンス”はあったはずなのに、「大丈夫そうですね」で終わっていたことはなかったか。
確認すること自体が目的になり、本来の“確かめ合い”が機能していなかったのかもしれません。

仮説4:「伝わっているだろう」という思い込みがあった

PMや営業が、お客様との会話の中で「このくらいは伝わっているだろう」と判断してしまったり、逆に開発チームに「これ、言ってなかったかも」と後から気づいたりすることもあります。
いわば、無意識の前提が積み重なっていた、ということもあるかもしれません。

解決策:ズレを防ぐにはどうしたらいいか?

これまで見てきたようなズレは、「誰かの不注意」というよりも、仕組みや関わり方のなかに「すれ違いやすいポイント」があることから起きているように思えます。
完全に防ぐのは難しいとしても、小さな工夫や仕組みで、ズレのリスクを減らしていくことはできるかもしれません。

以下は、私たち自身の現場や支援先の中で試してみている取り組みの一部です。万能ではないですが、少しでも参考になればうれしいです。

期待を“見える化”する工夫を取り入れる

「これで大丈夫だろう」「通じているはず」という感覚だけに頼らず、お互いが想像している“完成イメージ”を早い段階で共有できると、すれ違いが減ることがあります。

  • ストーリーボードや簡易なプロトタイプ(動きがわかる試作品)を作って、「実際に触ったらこうなる」という感覚をすり合わせる
  • 仕様書だけでなく、「この機能で何を達成したいのか」「どういう使われ方を想定しているのか」「逆に、どういうケースはNGなのか」といった背景も書き添える

特にプロトタイプは、実装前に“目に見える形”で確認できるため、「思ってたのと違う」を早めにキャッチできる場になります。

合意形成の場の“質”を変える

日々の定例や中間レビューなど、“確認のタイミング”自体は多くのチームで設けられています。
ただし、その時間が単なる進捗報告や「問題ないですね」で終わってしまうと、本当のすり合わせにはならないことも。

  • レビューの時間を「正しいかどうかをチェックする場」ではなく、「何か違和感がないかを一緒に探す場」として位置づける
  • プロトタイプや画面設計を見せながら、「この動き、想定と合っていますか?」と問いかけてみる

“確認”よりも“発見”を目的にしたほうが、ズレの芽を早く見つけやすくなります。

PMの役割を“翻訳者”から“編集者”へと広げてみる

プロダクトマネージャー(PM)は、ビジネス側と開発側をつなぐ存在として、「要件を正しく伝える」ことを担うことが多いですが、それだけではすれ違いを防ぎきれないケースもあります。

  • 「お客様がこう言っていたからそのまま伝える」だけでなく、「本当にこの形で届けていいのか?」「この表現で伝わるのか?」と一歩立ち止まって考えてみる
  • 必要であれば、要件そのものを“編集”し直す勇気を持つことも、ズレを防ぐうえでは重要かもしれません

翻訳だけでなく、「背景や意図を読み取りながら編集する」ことができると、関係者全体の理解の精度が上がり、結果的にズレを減らせる可能性があります。

はじめの一歩:まず何からやってみる?

「ズレを防ぐためにプロトタイプを」「期待値を見える化して」——そう言われても、正直どこから手をつければいいか迷ってしまう。
私たちも、支援の現場でよくそういった声を耳にします。

そこで、ここではあくまで小さく始められる工夫をいくつか紹介します。
どれも、今のチームのやり方をすべて変える必要はありません。ちょっとした習慣や会話の一工夫から、ズレを減らしていくことを目指しています。

要件テンプレートに「顧客の期待」を一言書き足す

要件を整理する際に、「なぜこの機能を求めているのか」「どういうシーンで使いたいのか」といった“背景”を一言でもメモしておく。開発者にとってはそれだけでイメージが大きく変わることがあります。

例えば、ただ「エクスポート機能」と書くのではなく「社内報告用にPDFで整った形式で出力したい」など

プロトタイプは“全部”じゃなくて“一部”だけでも

「全部の画面を作り込むのは大変…」というのはよくある話。でも、ユーザーが一番大事にしているフローや、誤解が生まれやすそうな画面だけでも、Figmaなどで簡易なモックを作って見せてみるだけで十分。

「これで伝わってるかな?」を見て確かめることに意味があります。

中間レビューで「これ、想定と合ってますか?」のひと言を入れる

進捗確認や仕様レビューの場に、たった一つ質問を加えるだけでも空気が変わります。

  • 「この動き、想像していたものと合っていますか?」
  • 「この画面で迷わなさそうですか?」

確認ではなく“すり合わせ”の時間にする意識が、ズレを減らす第一歩になります。

「言わなくても伝わっているはず」と思っていること、ありませんか?

PMや営業など、顧客と日々接している人は、たくさんの“肌感”を持っています。
ただそれが資料には載っていないことも多く、「あえて説明していないけど、現場では当然と思っていること」がズレの元になることがあります。
そんなとき、「伝えていない前提、何かありますか?」と軽く聞いてみるだけで、貴重な情報が引き出せることがあります。

こうした課題に、私たちはどう関わっているか

今回は「思ってたのと違う」という、誰もが一度は経験したことのあるズレについて考えてきました。

ズレを完全になくすことは難しくても、少しずつ丁寧に向き合っていくことで、チームの関係性や信頼感が変わっていく。私たちも、そんな現場をたくさん見てきました。

このようなテーマに対して、私たちは第三者だからこそ担える役割があると感じています。

たとえば、普段の会話の中ではスルーされがちな違和感を拾ったり、社内では言いにくいことを“あえて言葉にする”役割を担ったり。関係者全員が“当たり前”として見過ごしている構造的なズレを、中立の視点で可視化することができます。

たとえば、こんな支援を行っています。

  • プロトタイプやユーザーストーリーベースの要件整理の導入支援
  • 要件テンプレートや「確認すべき観点リスト」の設計・展開
  • 中間レビューや社内フィードバックの場のファシリテーション設計
  • デザインと実装の“インターフェースのズレ”を減らすための仕様管理支援
  • レビュー観点をコードベースにまで落とし込む技術チェックリストの設計
  • 実装前フェーズのユースケース駆動のテスト設計

どれも、特別なツールや大きな組織改革が必要なわけではありません。
日々の仕事の中で「ちょっとだけやり方を変えてみる」ことから、ズレは少しずつ小さくなっていきます。

もし、似たようなモヤモヤがチームの中で続いていたり、
「これって、誰に相談したらいいんだろう?」と思ったことがあれば、
お気軽にご相談いただければと思います。

一緒に考えるところから、お手伝いさせてください。

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